2009年10月24日土曜日

イスラエルでフィリピン料理

西エルサレムやテルアビブを歩くと、
タイとかフィリピンっぽい女の人たちがいっぱいいます。
物価が安い東エルサレムで買い物をしている彼女たちを
見かけることも。



留学中、ふとしたきっかけで、
私は彼女たちのコミュニティにお邪魔したことがあります。


それは、2006年12月末のことです。
デンマーク人留学生ヘンリックと私は、
テルアビブのクラブで新年を迎えるドイツ人集団と合流すべく
エルサレムからテルアビブに向かっていました。
20シェケル、小1時間の乗合バスの旅です。


当時ヘブライ語の数字を覚え始めた私は、
ふとしたキッカケで隣の席のおっちゃんと英語で話し始め、
ヘブライ語で「あけましておめでとう」を教わったりしていました。

そしてさらにふとしたキッカケで、
私の口からアラビア語がポロリと出てしまったのです。




おっちゃんは私の顔をまじまじと見て、
「君、アラビア語を喋るのかい?」


なみ:「うん、ビールゼイトに住んでいるからね」

彼:「私もアラビア語を喋るんだよ!」




という訳で、おっちゃんはアラブ人でした。
ヘブライ語も英語も喋るなんて、羨ましい。




なみ:「テルアビブに何しに行くの?」

彼:「これから友人のパーティーがあるんだ。
   そうだ、君達もおいでよ! きっと楽しいぞ!!」


なみ:「どうするヘンリック、行ってもいい?」

ヘンリック:「あー、俺はビールが飲めれば何でもいい…」




じゃぁ、一時間くらい寄り道していこうかな。





連れていかれた先は、
テルアビブのバスステーション近くの寂れた通り。
夜も10時となれば人通りは少なく、
ゴミやら何やらが散らかっていて怪しげな歩道。


そんな歩道に面した、人一人が通れるくらいの細いドア。
狭い通路。急な階段。
それを登ったところに、目的地はありました。



着いたところは1Kのアパートの一室。
10人くらいのアジア系の女性や子どもたちが、
クリスマス・パーティーの準備をしています。



袋からゴソゴソとカールスバーグを出しながら、
おっちゃんが言います。

「彼らはクリスチャンなんだけど、
 クリスマスには休みが取れないんだ。
 だからこうやって、週末や年末に集まるんだよ」


なみ:「どこの人たちなの?」

おっちゃん:「フィリピン人。あそこの男はエジプト系イスラエル人だよ」

なみ:「夫婦なの?」

おっちゃん:「あぁ、隣に座ってる女とね。
        子どももいる。正式に結婚しているとは言えないけどね」



話している間にどんどん並べられていくアルミ皿には、
豚肉の入ったフィリピン料理が山盛り。
まさか、イスラエルで本場フィリピン料理を食べるなんて。
今まで外語祭でしか食べたことなかったのに。。。。



ぽかーんとしている私を笑いながら、
彼は続けます。



「彼らはね、国で働けば一月300ドルしか貰えないんだ。
 でもイスラエルで働けば一月1000ドルだよ。

 介護や工場の仕事をするんだ。

 だから、夫や子どもを置いてここに来る。

 イスラエル政府も労働ビザを簡単にくれる。
 

  でもな、ビザは5年限りなんだ。
 イスラエル政府は簡単にはビザを更新させてくれない。
 君なら、5年で働くのを止めて帰るか?
 仕送りが必要なんだ。だから働かなきゃいけない。

 ここにいる彼らの半分は、不法労働者だよ」


「10人で1Kのアパートを借りて、シェアする。

 彼らはあまり家には帰ってこられないからね。
 寂しくて、こっちで新しいパートナーを見つける人もいる」


そう言ってビールに口をつけると、彼は続けます。


「俺だって、そういう話があったんだ。
 俺は奴のことがとても好きだった。
 きれいで、すてきなフィリピン人の女だよ。

 でもなぁ、難しいんだ。簡単な話じゃない。
 だから『止めよう』って言ったんだ」





乾杯の音頭。
ビールを飲んでご満悦のヘンリック。
エジプトとデンマークのハーフであるこのお兄さん、
どこに行ってもマイペースです。

(後ろにいる赤いのがおっちゃん)



皆で飲んで食べて、イス取りゲームをし、
しまいには踊りだす。
お互いの額の間にミカンを挟んで、落とさないように踊るゲーム。
おっちゃんは酔っ払って調子に乗り、
そのへんに落ちていた新品の赤いTバックショーツを
頭に被って踊り始めた。おいおい。

彼を指さして笑う女たち。
そんな中、私はちょっと所在ない気分だったのを覚えています。
だって私は、部外者ではないからです。




こうやって、
外から労働力を持ってこないと回らないイスラエル社会。
誰かの紹介を受けて遠い地へ移り、
家族と離れて毎日働き、
厳しい環境を生き抜く女の人たち。



何か、私が向き合わなければならないものを思い出しました。

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